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コラム-介護の専門家からみた福祉用具・住宅改修コラム-介護の専門家からみた福祉用具・住宅改修

コラム介護の専門家からみた

福祉用具・住宅改修

「理学療法士からみた福祉用具」、「作業療法士からみた住宅改修」を交代でそれぞれの視点から、専門的な知見を踏まえお伝えするコラムです。

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からみた

物の整理状況から認知機能を推測する方法

高齢社会白書によると、認知症高齢者は増加し、2025年には認知症患者および有病率は約700万人、65歳以上の5人に1人なると推計しています1)。介護保険の要介護認定を受けた方のなかで、介護が必要になった原因として「認知症」が多くを占め、順位も上位に位置しています。更に、「認知症」がある方は、転倒率が約8倍高まることが報告2) されています。認知症がある方にとって、暮らしやすい居住環境支援が、より求められていくようになると思います。

ところで、MCIという言葉をご存知ですか。MCIは軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)と呼ばれ、認知症の前駆症状として知られています。MCI・軽度認知障害を把握できれば、認知機能に関する居住環境支援の実施が可能になると思います。MCI・軽度認知障害に関する既往研究では、健常高齢者と比較すると、服薬や予定の管理、物の整理整頓、電話や家電の使用などの IADL が低下することが示されています3)

診断がついていなくても、観察等から認知機能の問題や課題を把握し、環境支援の検討は可能です。私は居住環境調整で伺った際に、①最初に生活環境を把握し、②日常生活行為の遂行状況を確認し、③生活する上での課題・改善する場所やその行為・活動の実施方法を見せて頂くといった手順を踏んでいます。

最初に、①生活環境を把握する際に、物の整理状況を確認します。認知の障害がある場合は、整理整頓が苦手になりますので、使用した物品や使用する頻度の多い物品は目に見える所に置くことが多くなります。一見するだけで、その様子は把握できると思います。それらの範囲が広い場合、目に見える所に多くの物品が置かれている場合は、その対応の必要性が強いと思っています(図1)。

図1)居住環境における使用物品の整理状況の確認

図1)居住環境における使用物品の整理状況の確認

次いで、②日常生活行為の遂行状況を確認する際には、最初にADLやIADLを口頭で確認します。確認する内容は、生活行為を自己で実施してるか、その頻度はどれぐらいか、といった具合に確認します。次に、生活行為を実施している場所を確認します。
例えば、トイレやお風呂などの場所の遂行状況の確認は、「手あか」などを確認して、生活場所の使用状況を把握しています。また、食事を作っていると話されていた場合、台所を確認します。物品が多く使用できない可能性が高い場合、惣菜のプラスティックが多い場合は、言動が一致しないので、認知機能の課題が少なからずあるかも知れないと判断しています。言動等が一致しない箇所が多ければ、認知機能の課題や支援が必要な場所が広い範囲に及んでいるかも知れません。対象者の言葉と生活環境の使用状況の2つの情報を得て、裏付けを取る様にしています。その際に、言葉と生活環境の使用状況に乖離している状況があっても、問い詰めないようにしています。その理由は、問い詰めて、関係性が悪くなっても、良い結果につながらないと思っているからです。

本人が把握している日常生活の遂行状況・確認した生活環境を踏まえて、③生活する上での課題や問題とその行為の実施状況を見せて頂きます。どのように動作・活動しているか、どの行程の、どの動作が困難に感じているのかを、実際に行って頂いて確認するようにしています。

認知機能の課題や問題がある方の環境支援を検討する場合は、動作や活動の簡略化、目印などの表示などによる「手がかり」を与える工夫が有効であるとの報告があります4)

環境支援の検討は、無理なく容易に動作ができるよう対象者の身体の大きさに合わせ手すりの長さや位置を設定する、見やすい位置・見つけやすい色などの配慮をした手すりを選定する、などの直感的に動作できるよう配慮することを優先しています。

参考文献
1.内閣府、平成28年度高齢社会白書:高齢化の状況及び高齢社会対応の実施状況、高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向、高齢者の健康・福祉
2.萩野浩、転倒の疫学とエビデンス:The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine、Vol.55、No.11、pp.898-904、2018
3.赤坂博、米澤久司、高橋純子、小原智子、柴田俊秀 他:MCI・早期アルツハイマー病の短時間スクリーニング法の検討 ―老研式活動能力指標の自己評価と家族評価を用いて―、日本老年医学会雑誌、Vol.57、No.2、pp.182-194、2020
4.大島千帆、児玉桂子:認知症高齢者の状態像に基づく類型化と類型別にみる在宅環境配慮の効果、日本建築学会計画系論文集、Vol.76、No.665、pp.1205-1212、2011

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