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コラム-介護の専門家からみた福祉用具・住宅改修コラム-介護の専門家からみた福祉用具・住宅改修

コラム介護の専門家からみた

福祉用具・住宅改修

「理学療法士からみた福祉用具」、「作業療法士からみた住宅改修」を交代でそれぞれの視点から、専門的な知見を踏まえお伝えするコラムです。

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高齢者の柔軟性の低下は
筋肉が硬くなるからではない!

「長座体前屈」をご存知ですよね。座位姿勢で膝を延ばして、体を前に倒し、手が移動した距離を測定します。ピーク値は、男性は17歳で平均51.11cm、女性は19歳で平均47.68cmです。65~69歳の男性で平均36.68cm、女性で40.67cmとなり、男性はピーク値の約70%、女性は約85%となります。これが後期高齢者となる75~79歳の男性だと平均34.81cm・ピーク値比68%、女性は平均37.93cmでピーク値比約80%になります1)。加齢に伴い、体の柔軟性が低下することがお判りになると思います。

転倒の要因を考えてみましょう。「加齢に伴い、筋肉が硬くなり、体の柔軟性が低下し、転倒に至る可能性が高くなる。」というように解釈されている方が多いと思います。本当にそうでしょうか。

芝浦工業大学の研究では、高齢者の柔軟性低下は神経の硬さが要因であると説明しています。若者と比較した実験では、若者は筋肉の硬さが増加すると関節可動域が狭くなったのに対して、高齢者はその傾向が見られず、神経が硬くなると関節の可動域が狭くなったとしています。更に、神経の柔軟性を向上するためのトレーニングは、年齢ごとに異なる可能性があると示しています2)。今後、年齢別のトレーニングが開発されることを暫し待ちたいと思います。柔軟性が低下した高齢者への支援は、待つことはできませんので、高齢者の柔軟性が低下した場合の危険性、生活機能の確認方法を見ていきましょう。

高齢者に多い姿勢で思いつくのは、円背です。円背は腰椎後彎に伴い、骨盤後傾により、重心が後方へ移動することで、後方転倒が増加し、脊椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折の受傷転機になります。環境支援を検討する際には、①生活機能として円背の程度の把握、②日常生活の遂行状況を確認し、転倒を防ぐことがポイントになります。

円背の程度を確認できる立位と座位での観察方法を挙げたいと思います。立位では、体を側方から見て、耳垂・肩峰・大腿骨大転子・膝蓋骨の後・足関節の2cm手前が一直線になると良い姿勢とされています。円背姿勢の場合、肩峰と耳垂の水平距離が大きくなります。また、骨盤の後傾、その影響により膝の屈曲が伴います(図1)。立位でスクワットしているような姿勢になりますので、柔軟性がなくなりますよね。この姿勢を取る方は、骨盤後傾に伴い、ハムストリングスが短縮することが多く、結果として長座体前屈の数値が小さくなります。座位で確認する際には、耳垂と肩峰の水平距離の確認、顎部の前方への突出、骨盤の後傾を確認しましょう(図2)。基準点からの水平距離が大きいほど、円背の程度が強調されていることになります。転倒の可能性も高まりますので、経時的に比較することも大切かも知れません。

図1)立位姿勢での確認ポイント

図1)立位姿勢での確認ポイント

図2)座位姿勢での確認ポイント

図2)座位姿勢での確認ポイント

日常生活の遂行状況の確認の際には、後方への重心移動を伴う立ち座りする場所や機会を把握することが重要になります。加えて、転倒経験とその方向を確認しておきます。複数の転倒経験がある場合や、後方への転倒経験がある場合、転倒の可能性が高くなります3)。環境調整のための問診の場合は、過去の転倒経験回数とその方向を確認する必要があります。これらを把握した後、転倒を予防する環境支援を行っていきます。

次回は、円背姿勢の方への動作を容易にする環境支援の確認ポイントを紹介したいと思います。

参考文献
1)新体力テスト実施要項(65~79歳対象)、文部科学省、
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/07/30/1295079_04.pdf
2)神経の硬さが高齢者の関節の柔軟性と関連することを発見、芝浦工業大学、
https://www.shibaura-it.ac.jp/news/nid00001369.html
3)福田圭志、井尻明人、鈴木俊明、静止立位と転倒方向および転倒頻度の関連を調査した横断研究、関西理学療法、Vol.17、pp.105-110、2017

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